新学習指導要領の精神疾患に関する記述

平成34年度(2022年度)より、高校の保健体育で精神疾患が扱われます。
高校の新学習指導要領に、精神疾患に関する記述が新たに盛り込まれたのです。

そこで、その記述を確認してみることにしました。

新学習指導要領の記述


↓ 176ページ中段と178ページ下段をご覧ください。文部科学省ホームページへのリンク。PDF。1,862KB。
◇ 高等学校学習指導要領
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※ PDFを閲覧するには Adobe Reader が必要です。
こちら新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。


メインである178-179ページの記述は以下の通りです。

2 内容

(1) 現代社会と健康について、自他や社会の課題を発見し、その解決を目指した活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。

(中略)

(オ)精神疾患の予防と回復
精神疾患の予防と回復には、運動、食事、休養及び睡眠の調和のとれた生活を実践するとともに、心身の不調に気付くことが重要であること。また、疾病の早期発見及び社会的な対策が必要であること。

このほか、「体つくり運動」では、精神疾患の予防と回復などの内容との関連を図ることとされています(176ページ)。
記述はこれだけで、実にシンプルです。
シンプルすぎて、よく分かりません。


「高等学校学習指導要領解説」の記述


ですが、文科省は新学習指導要領とともに「高等学校学習指導要領解説」というものを出していて、そこにはもう少し詳しい記述があります。
何箇所か記述があるのですが、メインは220ページです。

↓ 文部科学省ホームページへのリンク。PDF。8,249KB。
◇ 高等学校学習指導要領解説 保健体育編・体育編
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その220ページの内容です。

(オ) 精神疾患の予防と回復
ア 精神疾患の特徴
精神疾患は、精神機能の基盤となる心理的、生物的、または社会的な機能の障害などが原因となり、認知、情動、行動などの不調により、精神活動が不全になった状態であることを理解できるようにする。
また、うつ病、統合失調症、不安症、摂食障害などを適宜取り上げ、若年で発症する疾患が多く、誰もがり患しうること、適切な対処により回復が可能であること、疾患を持ちながらも充実した生活を送れることなどを理解できるようにする。
その際、アルコール、薬物などの物質への依存症に加えて、ギャンブル等への過剰な参加は習慣化すると嗜癖行動になる危険性があり、日常生活にも悪影響を及ぼすことに触れるようにする。

イ 精神疾患への対処
(中略)
さらに、人々が精神疾患について正しく理解するとともに、専門家への相談や早期の治療などを受けやすい社会環境を整えることが重要であること、偏見や差別の対象ではないことなどを理解できるようにする。

「認知」「情動」「行動」という言葉が出てきましたが、実際の教室でも教えるのでしょうか。
もしそうだとしたら、少し踏み込んだ内容かもしれません。
現状では、ほとんどの高校生がこうした考え方は知らないでしょう。
それどころか、教員すら知らないかもしれません。
将来的に認知行動療法を学ぶ必要が出てきたとき、予めこうしたことを学んでいると入りやすいかもしれません。

また、具体的な精神疾患として、うつ病、統合失調症、不安症、摂食障害、さらにはアルコール、薬物などの物質への依存症などが挙げられています。
「若年で発症する疾患が多く、誰もがり患しうること」とありますが、この授業を受けるのは高校生です。
将来罹患する可能性のある生徒はもちろん、今まさに罹患している生徒もいることでしょう。
それだけに、「メンタルヘルスリテラシー」というのでしょうか、こうした知識を高校生の間に身につけておく意義は大きそうです。
これらの疾患の中には、引きこもりとの関わりも考えられるものも含まれています。

「精神疾患への対処」については、本当にその通りだと思います。
学校教育の効果がどの程度のものかは分かりませんが、精神疾患により深い理解を持つ新しい世代の登場に期待したいです。

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メンタルヘルスへの早期介入、引きこもり予防にもつながる?

メンタルヘルスの問題の多くは、10代までに始まる


イギリスの首相は、メンタルヘルスの問題に熱心のようです。9日、メイ首相はメンタルヘルス改革のための政策を、行政機関「チャリティ委員会」で行なわれたスピーチの中で明らかにしました。

政策は、若者や子供に焦点を当てたものだそうです。例えば、全ての中等学校に、症状を特定する方法や、メンタルヘルスの問題が現れるかもしれない人を支援する方法を教える研修講座を提供するといった施策が盛り込まれています。

↓ BBC NEWS ホームページへのリンクです。
◇ Mental health reforms to focus on young people, says PM (新しいウィンドウで開く

↓ イギリス政府ホームページへのリンクです。
◇ Prime Minister unveils plans to transform mental health support (新しいウィンドウで開く

この政策の当否は私には分かりませんが、問題意識には共感します。BBC の記事にもありますが、メンタルヘルスの問題は10代までに始まる場合が多いそうです。メイ首相の政策は、治療だけでなく、予防にも目を向けているという見方もできるかもしれません。

もともとイギリスでは、メンタルヘルスに対する関心が以前から高まっていました。先代のキャメロン首相も「メンタルヘルス革命」(mental health revolution)として政策を打ち出していました。

引きこもりも、早期に介入が行なわれていれば……


メンタルヘルスの問題といえば、日本の引きこもりも無関係ではありません。引きこもりの若者の多くが、何らかの精神疾患の診断基準に該当したという調査報告もあります。

5つの精神保健福祉センターの思春期・青年期ケースについての研究もその一つです(近藤ら、2010)。本人が来談した184件のうち、情報不足により診断保留となった35件を除いた148件で精神医学的診断(DSM-IV-TRによる多軸診断)が確定、そのうちいずれの診断基準も満たさないと判断されたものは1件のみだったそうです。

支援経過中に、新たにI軸、II軸診断が追加された例はありませんでした。このため、「引きこもりが続くと精神医学的問題が生じる」といった仮説には否定的であり、精神医学的問題は引きこもりの原因となっている可能性が支持されると報告書には書かれてあります。

これらの例の中には、早いうちに手を打つことができれば、引きこもりにまでは至らずに済んだ例も多々あるかもしれないと、私などは考えてしまいます。

文献


◇ 近藤直司、清田吉和、北端裕司、黒田安計、黒澤美枝、境泉洋、富士宮秀紫、猪俣夏季、宮沢久江、宮田量治(2010)「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」 齋藤万比古『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』67-86。 http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do

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精神疾患をモンスターとしてキャラクター化

英国の Toby Allen さんという方が、精神疾患をモンスターとしてキャラクター化する活動を行なっていて、興味深く見ています。

例えば……

○ 社交不安 (新しいウィンドウで開く
○ PTSD (新しいウィンドウで開く
○ うつ (新しいウィンドウで開く
○ 統合失調症 (新しいウィンドウで開く

○ 場面緘黙症/選択性緘黙 (新しいウィンドウで開く) [注]

Toby Allen さんの取り組みは Daily Mail という英国の有名な大衆紙に取り上げられたことがあるのですが(電子版で確認)、そこにはこの取り組みの意図が書かれてあります(Innes, 2013)。

* 以下引用 *

「Toby Allen さんは、モンスターは精神疾患を軽んじる意図で作ったものではないと話している」
「Toby さんは、精神疾患に物理的な形を与えることにより、精神疾患をより克服可能なものに見せることを 期待している。また、精神疾患にまつわるスティグマを減らすことを期待している」

(Toby Allen says the monsters are not meant to make light of the conditions)
(He hopes that by giving them a physical form, he will make them seem more beatable - also hopes they will reduce stigma around mental illness)


* 引用終わり *

ですが、モンスター化には他の効果も期待できると私は思います。精神疾患を罹患者と切り離し、精神疾患は打ち克つべきものと認識する効果です。例えば場面緘黙症だと、緘黙を自分のアイデンティティとする人が中にはいます。それもひとつの考えでしょうが、克服しようとするのであれば、緘黙と自分を切り離して考えることも必要です。

なお、Toby Allen さん自身も、不安障害で悩まれた方です。

日本でも、「認知の歪み」をキャラクター化したものがネット上で話題になったことがあるのですが、あれを見て似た感想を持ちました。

↓ 「認知の歪み」をキャラクター化したもの。「社会不安障害と向き合う」さんの Twitter へのリンクです。
https://twitter.com/Living_With_SAD/status/433116253813604352 (新しいウィンドウで開く

[注] 場面緘黙(かんもく)症/選択性緘黙……発声器官に器質的障害がなく、言語の習得にも問題がないにもかかわらず、特定の場面で継続的に発語ができない状態のこと。

※ 場面緘黙症Journal (新しいウィンドウで開く

[文献]

◇ Innes, E. (2013, October 9). The mental illness monsters: Artist visualizes what illnesses would look like if they were mythical creatures. Mail Online. http://www.dailymail.co.uk/health/article-2449864/Artist-Toby-Allen-imagines-mental-illness-monsters.html

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